個人開発でアプリやWebサービスを有料提供するとき、避けて通れないのが「特定商取引法に基づく表記」です。法人でなくても、個人が継続的に販売する以上は表示義務が発生します。
とはいえ、自宅住所や携帯番号をそのまま出すことに抵抗がある方も多いはずです。この記事では、必要な項目の書き方から、住所・電話番号を出したくない場合の現実的な選択肢、決済手段ごとの注意点までを整理します。
ローンチガード編集部
個人開発アプリの法令表記・UXを自動監査するツール「ローンチガード」を運営しています。本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の判断が必要な場合は専門家にご相談ください。
この記事でわかること
個人開発でも特定商取引法の表記が必要になる条件
特定商取引法は訪問販売や電話勧誘販売など複数の取引類型を規制していますが、個人開発者に関係するのはほぼ「通信販売」の一類型です。インターネット上で申込みを受け付けて商品やサービスを提供する形態が、これに当たります。
通信販売に該当する個人開発サービスの範囲
Webサイト上で決済ボタンを置き、対価と引き換えに機能やコンテンツを渡すなら、形態を問わず通信販売です。物理的な商品を扱っていなくても対象になります。
- 月額課金のSaaS・Webアプリ
- 買い切りのデスクトップアプリやモバイルアプリ
- 有料note・電子書籍・素材データなどのダウンロード販売
- 個人向けのオンライン講座やコンサルティング枠の販売
開業届の有無や売上規模は、表示義務の有無と直接は関係しません。「まだ副業だから」という理由で省略できるものではない、と考えたほうが安全です。
無料アプリと有料アプリで変わる義務の線引き
完全に無料で、課金導線も広告収入以外の販売も存在しないサービスなら、通信販売には当たらないため特商法の表記義務は生じません。ただし境界は思ったより手前にあります。
無料プランと有料プランを併設した瞬間、サイト全体として販売を行っていることになります。将来の課金を見据えているなら、ページだけ先に用意しておくほうが手戻りは少なくなります。
💬 編集部コメント
無料サービスでも、寄付ボタンやスポンサー枠を置いた時点で判断が微妙になります。対価性のある受け取りが1つでもあるなら、表記を用意しておくと悩まずに済みます。
個人開発の特定商取引法 表記に書くべき項目と書き方
通信販売の広告表示義務として定められている項目を、デジタル商品向けに整理します。物販向けのテンプレートをそのまま流用すると、送料や配送日といった存在しない項目が残りがちです。
事業者情報として書く氏名・住所・電話番号
事業者名の欄には、屋号やサービス名ではなく戸籍上の氏名を書きます。屋号を見せたい場合は「屋号(氏名)」のように併記する形が実務上よく使われています。
住所は現に事業を行っている場所を番地・部屋番号まで記載します。電話番号も、日中に確実につながる番号が求められます。
価格・支払い方法・提供時期の書き方
価格は税込の総額表示にします。サブスクなら課金周期と、次回以降も自動で請求される旨を明記してください。
提供時期は、デジタル商品なら「決済完了後ただちに利用可能」といった記述で足ります。以下は個人開発サービスでの記載例です。
| 項目 | 記載例 |
|---|---|
| 販売価格 | 各プラン紹介ページに税込価格を表示(月額1,480円など) |
| 商品代金以外の必要料金 | インターネット接続に必要な通信料はお客様のご負担となります |
| 支払方法 | クレジットカード決済(Stripe) |
| 支払時期 | 初回は申込時、以降は毎月同日に自動課金 |
| 提供時期 | 決済完了後、ただちにご利用いただけます |
| 動作環境 | 最新版のGoogle Chrome、Safari、Microsoft Edge |
返品・キャンセルとデジタル商品の特約
返品特約を書いていない場合、法律上は一定期間の返品を受け入れる扱いになります。デジタル商品で返品を受け付けない方針なら、その旨をはっきり書く必要があります。
ただし「一切返金しない」とだけ書いて済ませるのは危険です。サービス側の不具合で提供できなかった場合の扱いは、別途書き分けておくと後の対応が楽になります。
🛡️ 表記の抜けをURLだけで確認
ローンチガードは、公開中のサイトURLから特商法表記やプライバシーポリシーの有無を含む26項目を自動チェックします。リリース前の見落とし確認にお使いください。
無料で診断してみる →住所と電話番号を公開したくない場合の選択肢
個人開発者が最もつまずくのがこの部分です。自宅住所の掲載を避けたい事情は理解できますが、単に空欄にする対応は認められていません。
請求があれば遅滞なく開示する方式の条件
広告上の省略が認められるのは、消費者から請求があったときに遅滞なく書面や電子メールで開示すると明示し、実際にその体制を整えている場合です。開示請求を受ける窓口を用意せずに省略表記だけ真似るのは、条件を満たしていません。
問い合わせフォームやメールアドレスを常時受け付ける形にし、請求が来たら実際に返す運用まで含めて考えてください。
バーチャルオフィス・プラットフォーム利用の比較
もう一つの方向性は、掲載してよい住所と番号を別に用意する方法です。それぞれ費用と手間が異なります。
| 選択肢 | 向いているケース | 留意点 |
|---|---|---|
| 自宅住所を掲載 | コストをかけたくない段階 | 検索で氏名と住所が結び付く前提で判断する |
| バーチャルオフィス | 継続的に販売する予定がある | 月額費用と、郵便物転送の遅延を見込む |
| 開示請求に応じる方式 | 個人利用の番号しかない | 請求への対応体制が実際に必要 |
| 販売プラットフォーム経由 | 単発のコンテンツ販売が中心 | 手数料と、規約側の表示ルールを確認する |
💬 編集部コメント
プラットフォームに出品していても、自前サイトで別途決済を受けているなら、そのサイトには自分の表記が要ります。販売経路ごとに考えるのが安全です。
決済手段とサブスクで変わる特定商取引法 表記の注意点
同じ内容の表記でも、課金モデルによって足すべき記述が変わります。特に定期課金は、表記ページだけでなく購入画面側の作りも問われます。
サブスクリプションと最終確認画面の表示
申込みの最終確認画面には、分量や金額、支払時期、解約の条件などをまとめて表示することが求められています。決済サービスの標準画面に任せきりだと、自動更新であることが読み取れないケースがあります。
確認画面に載せるべき情報は、次の観点で見直すと漏れにくくなります。
- 次回の課金日と、その後も自動で更新される旨
- 無料トライアルが有料へ切り替わるタイミング
- 解約手続きの場所と、解約後にいつまで使えるか
- 最終確認画面から利用規約へ戻れる導線
Stripe決済とアプリストア経由での書き分け
自前サイトでStripeなどを使う場合、販売者は開発者自身です。表記に自分の氏名と連絡先を書き、支払方法の欄に決済代行の名称を添える形になります。
一方、アプリ内課金でストアが販売者となる形態では、ストア側の規約と表示が優先される部分があります。それでも自社サイトで直販を併用しているなら、そちらには表記が必要です。
💬 編集部コメント
無料トライアル付きのサブスクは、解約導線の分かりにくさが苦情に直結しやすい部分です。表記の文面より先に、解約ボタンの位置を見直すほうが効果的なこともあります。
個人開発サイトの表記で実際に多い不備の傾向
ここからは、個人開発サイトを自動監査してきた中で見えてきた傾向です。作成そのものより、置き方と中身の使い回しでつまずくケースが目立ちます。
監査で頻出する欠落パターン
ページ自体は存在しても、内容が実態と噛み合っていない例が少なくありません。よく見かけるのは次のような状態です。
- 物販用テンプレートを流用し、送料や配送日の欄が残っている
- 事業者名がサービス名のままで、氏名が書かれていない
- 返品特約の記述がなく、デジタル商品の扱いが不明
- 価格欄が「プランページ参照」だけで、リンクが張られていない
いずれも、テンプレートを埋める段階で自分の商材に置き換えきれていないことが原因です。
リンク導線とページ設計の不備
もう一つ多いのが、ページはあるのに購入者から辿れない状態です。フッターに置いたつもりがトップページにしか存在せず、決済ページから戻れない構成をよく見かけます。
全ページ共通のフッターから、プライバシーポリシー・利用規約と並べてリンクするのが素直な解決策になります。申込画面と同じ画面内から到達できるかどうかを、最後に必ず確認してください。
💬 編集部コメント
noindexのまま公開されている表記ページも珍しくありません。検索避けの設定を全ページに一括で入れていると起きがちなので、公開前に対象範囲を見直しておきましょう。
個人開発の特定商取引法 表記に関するよくある質問
個人開発者から寄せられやすい疑問を、判断の目安とあわせてまとめます。迷ったときは、購入者から見て情報が足りているかを基準にしてください。
屋号やハンドルネームだけの記載でも大丈夫ですか?
事業者名としては不十分です。責任の所在を示す趣旨なので、戸籍上の氏名を記載したうえで、屋号を併記する形にしてください。
売上が少ない個人開発でも表記は必要ですか?
金額の多寡による免除はありません。継続的に販売する意思をもって募集している以上、初月の売上が0円でも表示義務の対象になります。
海外ユーザー向けのサービスでも日本語表記は必要ですか?
日本国内の消費者に向けて販売しているなら必要です。英語圏のみを対象とする場合でも、事業者が日本国内にあるなら日本語の表記を用意しておくほうが無難です。
個人開発の特定商取引法 表記のまとめ
有料で提供する個人開発サービスは、規模にかかわらず通信販売として表示義務の対象になります。まずは氏名・住所・連絡先・価格・支払時期・提供時期・返品特約という骨格を埋めるところから始めてください。
住所や電話番号を出したくない場合も、空欄にするのではなく開示請求への対応やバーチャルオフィスといった代替手段を選ぶ形になります。作ったあとは、購入画面から実際に辿れるかまで確認しておくと安心です。